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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2602号 判決

〔編注〕以下の判文は、当審の判決理由に当審で引用した原判決理由及び当審で一部訂正、補足した部分を合わせて構成したものである。

控訴人は、死亡による損害金九四四万〇五八六円は未払いのまま現存していると主張するが、採りえない。交通事故によって負傷した被害者が死亡し、事故と死亡との間に相当因果関係が認められる場合には、右事故による損害につき自賠法一六条によって被害者に支払われるべき保険金額相当の損害賠償金(以下、単に「保険金」という。)は、同法施行令二条一項一号による金額に限られ、事故時と死亡時との間に長期間の経過があっても、同項二号による金額が併せて支給されるべきものではなく、二号が適用されるのは、事故との相当因果関係が認められるのが傷害の範囲にとどまり、一号の適用をみない場合に限られることは、同項の規定上明らかであるから、死亡した被害者につき既に二号による保険金が支払われている場合に一号を適用する前提としては、右保険金が一号により支払われるべき保険金に充当し直されなければならないが、二号イの「傷害による損害」は一号ロの「死亡に至るまでの傷害による損害」と同質のもので、その保険金額も同一(本件事故当時は金一〇〇万円)であるから、二号イにより右限度額の支払いがなされているときは、当然に一号ロによる保険金に充当されるものと解すべきであり、そうすると死亡被害者につき支払われうべき保険金は、一号イの「死亡による損害」について認められる保険金のみに限られることになるから、二号ロ以下により後遺障害による損害を填補するものとして支払われた保険金は、一号イの「死亡による損害」にしか充当する余地がないことになる(両損害の基本的部分が実質的に共通することからいっても、右充当関係は相当というべきである。)。これを本件についていえば、亡亀吉については二号の適用はなく、後遺障害による損害を填補するものとして支払われた保険金は、一号イの「死亡による損害」の填補分に充当することによってのみ、その受領の結果を承認されうるところとなる。しかるに、本件で「死亡による損害」と認められるのは、前示のとおり金九〇〇万七〇〇六円(ちなみに、控訴人の主張によっても金九四四万〇五八六円)で、右損害に充当すべき既払いの後遺障害分保険金の額を超えないのであるから、右損害は保険金の充当によって填補されたこととなり、残存損害額はないものといわなければならない。したがって、控訴人の本訴請求が容認されるためには、その主張する損害から右填補ずみの損害を除いた「死亡に至るまでの傷害による損害」につき、一号イの定める保険金額から支払いずみとみるべき金九五二万円を差引いた金五四八万円の限度枠残額による保険金を支払うことが、自賠法施行令の解釈として可能であると認められるのでなければならない。控訴人は、後記のように、右の解釈をも主張するものと解される。

按ずるに、自賠法施行令第二条第一項第一号が死亡した者について前記イ、ロの区別を設けたのは、昭和三九年政令第八号による改正(昭和三九年二月一日施行)によってであり、それまではイ、ロの区別はなかった。右区別を設けたのは、死亡に至るまでの長期間病床に居る者にも十分な手当を行なえるようにするためであると説明されており、ちなみに、それまでの死亡の場合の保険金五〇万円であったものを、右改正により「死亡による損害」につき金一〇〇万円、「死亡に至るまでの傷害による損害」につき金三〇万円とかなり増額している。

当裁判所は、右イ、ロを区別して保険金額を定めた趣旨に鑑みれば、原告主張のような解釈は到底無理であり、保険会社としては損害を右イ、ロに分け各保険金額の範囲内において支払義務を負うものと解するほかないと考える。

控訴人は、一個の事故によって生じた損害賠償請求権は、実体法上一個の債権であり、訴訟上の請求(訴訟物)としても一個であると解すべきことを理由に、損害賠償額算定の方法・手続を定めた自賠法施行令二条一項を根拠として単一訴訟物の内容をなす損害を数個の損害に分解して解釈すべきではなく、同項一号についていえば、その合計額を超えない限り、イ・ロの各限度額の相互流用は当然に認められるべきものと主張する。しかし、一個の事故による損害賠償請求権が実体法上一個の債権であり、訴訟上も単一の訴訟物となることは、それが不可分であることを意味しない。このことは、一個の損害の一部を一定の要素によって特定し、その旨を明示して賠償請求をなしうることに疑問の余地はなく、かかる請求に対してなされた判決の既判力が、請求権の単一性を理由に損害賠償請求権全体に及ぶものでないことに徴しても、自明の理である。損害保険制度においても、填補されるべき損害の範囲を特定の一部に限り、あるいは、損害の各特定部分ごとに保険金額を定めることは、もとより可能である。右施行令二条一項は、立法政策上の観点から、死亡事故については死亡時を、傷害事故については症状固定時を基準として、損害が具体化した時期の前後により、これを区分して保険金額を定めたものと解されるのであって、控訴人の主張する請求権ないし訴訟物の単一性理論と、なんら矛盾するものではない。

(横山 野崎 浅野)

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